ーあらすじー
ここは世にいうパラレルワールドなのか?すっかり生前の世界など忘れて、絹重は少女に戻った青春時代を新聞部ミツバチクラブのメンバーと共に楽しんでいた。ともにはちみつを売ったり、地域新聞を作ったり…パラレルワールドは平和な世界なのか?
しかしまだ解決していないこともあった。それはあの謎の失踪事件だ。それを解決鶴鍵こそがこの世界にある。
大吹雪の日が続き、氷点下三十度を下回る寒さの厳しい高原での自然災害、そしてそんな災害による友達の家の経営難、これがまさか事件解決の鍵になるとはまだ最初は誰も思いもしなかった。
この物語は、パラレルワールド論説を取り入れた、ちょっと頭がこんがらがりそうなややこしい時代設定の最終部の物語です。なお、この物語が終わっても、このメンバーでのシリーズと、この物語につながっていくシリーズは続きます。
やっと雪も解けて春らしくなってきた入笠山。十六歳になる歳の平出絹重が一人、庭で洗濯物を干していた。木の物干し竿に、足元には洗濯桶と洗濯板。絹重は割烹着を着ていた。
絹重には両親が六人いる。初めの二人は産みの親。私は瀬戸内修と瀬戸内ツタキの四女として生れ
た。五人姉妹で上に三人の姉と、下に一人の弟がいる。一番上の姉は節子、掛川さんという男性と結婚をしていて今は三人の子を持つ母親だ。二番目の姉は壽子、同じく中山さんという男性と結婚をしていて今は二人の母親だ。三番目の姉はスミヱ、彼女は絹重とは年子の姉でまだ学生だ。結婚はしていない。そして絹重、その弟の元世である。しかしこの両親はもういない。昭和二十年、第二次世界大戦で投爆によって亡くなった。
二番目の親は、そんな絹重たち兄弟を養子縁組で引き取ってくれた平出夫妻だ平出修と平出房子は夫婦は瀬戸内夫婦の予てからの友人で、信頼でき、心置ける人物だった。絹重たちが引き取られた時にはすでに、夫婦には七人の姉妹がいた。全員女の子で絹重よりも年上だった。しかし平出夫妻も姉妹たちも、まだ当時幼かった絹重とスミヱ、そして元世を実の子の様に愛してくれた。しかしそんな平出夫妻ももういない、数年前に起こった自然災害の大雪、雪崩に飲み込まれて行方不明になってしまったのだ。
そして最後の両親は、これから話の重要人物となっていく春原夫妻だった。しかし春原夫妻の妻・春原トミは同じく第二次世界大戦の爆弾によって亡くなってしまい、今はもういない。旦那さんの春原史郎だけが元気で残ったが、彼は終戦直後に起こった大雪によって高原で雪崩に巻き込まれてしまい、そのまま行方不明だ。
しかし不思議なことに、彼は昭和三十九年の世界であの日と同じ若さのまま発見されて以来、今は
史郎に残された八人の息子娘と、彼が娘の様に愛している平出絹重と共に高原で貧しくて地味でも、逞しく生きていく。
これは春原史郎と、その八人の子のうち上の双子の次男・辰雄と、下の双子の末っ子の次女・麻子、そして絹重と彼女の友達、小平修とが主に動く物語である。