第4話 物語が町を救う
町の北にある森から、魔物の群れが現れた。
角を持つ狼型の魔物、グレイファング。

普段は森の奥で暮らしているが、数十頭の群れが町へ向かっているという。
警鐘が鳴り、人々は家の中へ逃げ込んだ。
町の衛兵は門の前へ集まったが、その数は十人ほどしかいない。
「このままでは門を守れません!」
若い衛兵が叫ぶ。
蒼太は白紙の本を握った。
物語を具現化すれば戦える。
しかし、蒼太の小説を読んでいるのは、まだ町の一部の人間だけだった。
強力な存在を出そうとしても、読者が姿や能力を共有していなければ、魔法は安定しない。
「だったら、今から全員に読んでもらえばいい」
蒼太は写本工房へ走った。
工房の主人と職人たちに頼み、短い物語を一枚の紙へ印刷する。
主人公は、町を守る銀色の騎士。
敵を倒すための英雄ではない。
人々の勇気が消えそうなとき、その心を支える騎士だ。
印刷した紙を、リナや宿屋の客たちが町中へ配った。
避難した住民たちは、家の中で物語を読み始める。
「銀色の騎士は、どんなに恐ろしい敵を前にしても、決して一人ではなかった」
誰かが声に出して読む。
隣の家でも、その先の家でも、同じ文章が読まれていく。
《同時読者数、三百十二名》
《共感率、九十一パーセント》
町の門が大きく揺れた。
グレイファングの群れが迫っている。
蒼太は最後の一文を書いた。
〈騎士の盾には、彼を信じるすべての人の願いが宿っていた〉
門の前に、巨大な銀色の騎士が現れた。
騎士が盾を地面へ突き立てると、町全体を包む光の壁が広がった。
グレイファングたちは壁に阻まれ、一歩も進めない。
「みんな、続きを声に出して読んでくれ!」
蒼太の声が鐘楼から町中へ響く。
人々は物語を読み続けた。
読者の声が重なるほど、銀色の騎士は強くなる。
やがてグレイファングの群れは戦意を失い、森へ引き返していった。
歓声が上がる。
銀色の騎士は住民たちへ一礼し、光となって消えた。
町長は蒼太の前へ進み出た。
「あなたの物語が、この町を救った」
「俺一人の力ではありません。読んでくれた人たちの力です」
その日のうちに、王都へ報告書が送られた。
内容は、次の一文から始まっていた。
〈辺境の町に、物語を現実へ変える作家が現れた〉
